新緑の6月

2017年6月20日

6月は梅雨の季節です。陰暦では6月を水無月と言います。

梅雨の季節に水の無い月と言うのも変に聞こえますが、神無月(神の月)と同様、水無月を水の月と読むものとされています。一説には旧暦では7月半ば頃となるため田植え後の水が無い時期とも言われます。いずれにせよ水に関係が深い月と言えます。

梅雨の頃は人々の暮らしにはうっとうしくて嫌な時期と言えますが植物の生育にはなくてはならない大切な季節です。日本が世界にも稀な四季があって豊かな自然に囲まれた国であるのは偏に寒暖の差と豊かな水に恵まれているからです。

春に芽吹いた木々が梅雨の季節でたっぷりと水を得て瑞々しく育つのです。自分が住まう八ヶ岳の山荘(「嵩山荘」)は標高1230メートルほどの高地であることから、少し遅れて5月末から6月に掛けて木々の緑が一斉に育ちます。

5月初めの連休の頃はまだ冬の延長とも言える状態で、ようやく若葉の一部が芽生える頃です。スイセンだけは元気に花を咲かせますが、その他の植物はようやく目が覚めた頃といえます。

毎朝、起きたらすぐにベランダに出て深呼吸をします。まだ冷たく感じる外気を胸に一杯吸い込みます。すぐ近くの森で今できたばかりの酸素を十分に体へ吸い込むと躰に生気が甦ります。

ベランダから近くの森の様子を見回します。そこで見る森の姿から毎日新しい発見があります。

木々の色が柔らかな白っぽい薄緑色から日ごとに鮮やかな濃い緑色に変わっていきます。その微妙で着実な変化の姿に大自然のたくましい生命力を改めて感じます。

万葉集にある志貴皇子(しきのみこ)の歌

「・・・垂水のうえの早蕨(さわらび)の萌出(もえいずる)春になりにけるかも」

といった感激の心情がわかる気がします。

木々に緑が濃くなるころは沢山の虫たちが育つ時期です。あちこちの木の葉から小さな虫の姿がいくつも見られます。不用意に毛虫に触れて痛い目にあうのもこの時期です。

 

ある日の夕方、庭の山つつじの葉に大きな奇妙な毛虫を見ました。今、羽化を始めたばかりでした。

みるみる、その姿が変化し、殻を脱ぎ捨てた虫が頭をだし,胴を現し、そして見事な羽根を現しました。やがて大きな蝶となって飛び立っていきました。

これらの毛虫も成長するにあたって決して無事安全なわけではありません。虫たちを狙う動物が沢山いるからです。小鳥たちがその筆頭です。

小鳥たちはこの時期に卵を産み、せっせと雛を育てます。虫たちが豊富なこの時期を見計らって子育ての時期とするのです。

今年もベランダの先の樅の木に掛けた巣箱からシジュウカラの雛が巣立ちました。

この巣箱からは昨年も一昨年も可愛いシジュウカラが巣立っていきました。庭には3個の巣箱を掛けましたがこの樅の木の巣箱がお気に入りのようです。

ベランダに寝椅子を置いて、目の前の巣箱に出入りする親鳥たちの様子をそっと見ながら静かにコーヒーを飲むのもまた至福のひと時です。

小鳥が巣立ったその日は6月6日でした。八ヶ岳開山祭が行われた6月4日の2日後でした。それまでは、来る日も来る日も、二羽の親鳥がせっせと巣箱に餌を運んでくる姿が見られたのですがその日以後、ぱったりと姿を見せなくなって巣箱が急に淋しくなりました。

この開山祭をめがけて家内の山友達が4人山荘に逗留していました。女性軍5人が阿弥陀岳への登山をし、山頂で開山祭の神事に参加した後、ハイテンションのまま山荘のベランダでバーベキューをしました。

今の暮らしの中では夜に山中で火を燃やすなど、めったにありません。お酒も入って自然と神経がハイになりがちです。当然に話し声が大きくなります。すぐ近くにあった巣箱の中でシジュウカラの雛たちはさぞ迷惑していたことでしょう。

今年は野兎を何度か見ています。薄い灰色をした結構大きな姿を度々見かけ、追いかけて行ってはよその家の庭に入り込んだりしました。

一方、気の所為かこのところリスの姿が少なくなりました。以前はベランダにリスの姿をよく見たものです。ベランダの手すりに設けた小鳥の餌箱にちょっこり座って、ヒマワリの種を食べていたことも度々目撃したものです。周りにはクルミの木が沢山あって、リスの餌場にもなっていたようですが、人が多くなり、クルミの木も伐採され、リスには住みにくい森になってきたのかもしれません。森にすむ動物たちと人々との共生も段々難しくなっていることでしょう。

ただ、鹿だけは確実に増えています。夕暮れ時、森の中で大勢の鹿の家族と出会うことは珍しくありません。毎年相当数が計画的に「駆除」されているのですが、それでも繁殖の数に間に合いません。可愛い鹿ですが農家には明らかな害獣です。お花も野菜も、植木の木でも鹿からすれば格好の食べ物です。ただ、育てている人には迷惑この上なしです。自分も移植したばかりの植木を随分と荒らされました。

小鳥は勿論、リスにしても鹿にしても森にすむ動物たちは人が住む遥か遠い昔からこの辺りに住みついていたのです。いわば貴重な先住民であり敬意をもって接しなければならない存在です。自分としては「駆除」せずに生きられる接点を見つけたいと思っていますがそれは甘い考えと言われるかもしれません。

新緑の6月は森が育ち、森の動物が繁殖する季節です。一年で最も生命が活発に活動する季節です。

都会に生活すると季節感が薄れますが森に住むと季節と共に過ごせます。生きとし生けるものの息吹と共に生きることが出来ます。ますます、生命への畏敬の念を改めて深く感じます。