3月15日に思う

2017年3月16日

今日は2017年3月15日。今年の確定申告の締切日であり、自分の満75歳の誕生日です。

吾ながら信じられない年齢になっています。

1942年(昭和17年)、戦争で沸き立っている名古屋市で生まれ、その後は幸田村の田舎で

育ちました。

いま思えば苦笑するほどに生真面目な学生時代でした。

人の人生はその人が出会った人々からの影響の総和である、とも言えます。

自分の人生も多感な青春時代に出会った人々からの影響が極めて大きいと言えます。

その代表といえるのは会計士の大塚次郎先生であり、学生時代の恩師青柳文司先生です。

 

大塚先生はすでに亡くなられておりますが自分が強烈な印象を受けた人です。

よくも悪くも大塚先生なしには自分の人生は語れません。ご自分にもきつい人でしたが弟子

たちにも相当きつい人でした。

「自分の頭で考えろ」「自分で決めろ」「人がどう思うかではない、自分がどう思うかを云え」

「困った時は原点に帰れ、帰る原点とは何かしっかり持て」「勝手なことをやれ、人には迷惑を

かけるな」・・・・・

大塚先生の言葉は当時の大塚先生の姿を伴ってありありと甦ります。それは凄まじくも真摯な、

愚直な人間としての叫び声でもありました。

自分は何度も何度も先生の事務所から逃げ出そうと思いました。でも、ここから逃げ出すことは

自分自身から逃げ出すことだ!当時の自分はそんな大塚風の考え方になっていました。

 

今から思い出せば辛い印象の方が強い大塚事務所でしたが、そこで必死に耐えたから今ここにいる

ような気がします。ただ、耐えるだけでなくそこに真摯で、必死で、愚直な一人の専門家の姿を見た

からです。

今でも、何か困った時、何か落ち込んだとき、先生が口癖のように呟いていた言葉を思い出して自分を勇気づけております。

“uncertainty and expectations are a joy of the life”

というものです。イギリスの経済学者ヒックスの言葉とされています。

「人間 明日の事はわかんない でも その明日を信じて生きて行こう それが生きる喜びの一つ

だよ・・・」

自分は勝手にそんな風に理解してこの言葉を温めています。

 

青柳文司先生は学生時代に師事したたった一人の先生で、ご自分が求める学問に愚直なまでにまっすぐ

肉薄し続けた修行僧のような研究者です。

学生時代、友人が将来研究者になりたくて青柳先生に質問書を書きました。一青年の人生相談のような

その手紙に丁寧な返信がありました。「…どの学問であれ道はローマならぬ人間の道に通じます」との

文面が自分を青柳先生に惹きつけました。

 

青柳先生の話では先生が横浜市立大学助手の頃出会った一冊の書物がJ・O・メイ氏の

「financial accounting」でした。難解と言われる書物ですが、何度読んでも意味が分からず、思いあぐねて著者のメイ氏に直接手紙で教えを乞うたようです。

アメリカP・W監査法人の創立者であってアメリカ公認会計士協会の重鎮であり、アメリカ会計学界の

大立者であるメイさんから孫のような日本の学者にヒントを頂けたようです。その本のキーワードが

「コンベンション」という言葉で、それはニコマコス倫理学からくるものと教えられ、

以来、青柳先生は会計学という学問を「コンベンション」というキーワードを軸に掘り下げ、言語学に

行き着き、更に論理学から組織論、情報論、演劇論等興味の及ぶところまさにご自分の言葉で言う

「学問のバガボンド」として研究を続けられました。

 

自分も先生の話に共鳴し先生の教えの一部を実務で利用させて頂きました。

特にモリスの記号論で言う意味論・構文論・語用論の考え方を会計に当てはめて理解した時に自分には

わかり易く説明できました。中でも重要なのが語用論の世界で、まさに「ヒトと会計」の問題が最も重

要なポイントであることを教えて頂きました。

それよりも何よりも先生の文書を読むたびに簡潔で無駄のない、そのうえ品のいい美しい文章に惹かれたものでした。

昔から「文は人なり」と言われます。文章を読めばその人の内面は大まかにわかると言われます。

その意味では恐ろしい世界です。自分には以前から、いつか先生のような簡潔で品のいい文章が書けたらいいな!といった実現困難な夢がありました。

公認会計士大塚先生と会計研究者青柳先生は学校の先輩後輩の間柄ですが、それぞれ専門家として強烈

な異彩を放つお二人です。そしてこのお二人は極めて仲がよく、お互いが心から尊敬している様子は

傍からも痛いほどよくわかりました。

 

お二人に共通する要素の一つは結局のところ「ヒト」の問題と云えます。

税務の世界であれ会計の世界であれ、専門家として知識・技法は勿論大切ですが更に大切なことは

「ヒト」を置き去りにしていい仕事は出来ないということです。

ある医科大学病院の壁に貼ってあった言葉です。「病気を見るな、病人を見ろ!」

東京農大の初代学長横井氏の言葉です。「稲の事は稲に聞け 農業の事は農家に聞け!」

警鐘して曰く「農学さかえて農業滅ぶ」どの実学の世界も「ヒト」の視点を決しておろそかにしないということが共通しています。

 

今日、齢75にして昔のことに思いを馳せ、もう一度自分の原点を見直す機会にしたいと改めて思っています。

ただただ、冷や汗が流れるばかりです。